手動テストと自動テスト:何が大きく違うのか?

この記事はTaryn McMillanによるゲスト投稿です

手動テストでは、人間のテスターがソフトウェアアプリケーションを操作し、直接的なやりとりによって問題を発見します。 

いっぽう、自動テストはコンピュータープログラムを利用し、事前定義済みのテストスクリプトを実行するため、効率性と正確さを期待できます。 

これら2つのテスト手法の違いについて詳しく見ていきましょう。

手動テストと自動テストはどう違うのか

手動テストと自動テストには、主にどんな違いがあるのでしょうか?大きな違いがあることは明白ですが、いくつかの要素を知っておくと、さらに細かく違いを分析するのに役立つでしょう。 

つぎの表は、テストのさまざまな側面から手動テストと自動テストの違いについて説明します。

テストの側面 手動テスト 自動テスト
正確さ ヒューマンエラーが発生しやすいが、人間の判断を必要とする複雑なテストに優れている。 反復テストでは非常に正確だが、人間の直感を必要とするテストやスクリプトの設計が貧弱な場合には弱い可能性がある。
コスト効率 調査やユーザビリティの評価を必要とする複雑なテスト、あるいは頻繁には実施されないテストに関しては費用対効果が高い。 反復的テスト、特に複数のサイクルにわたる回帰テストに関しては経済的。
信頼性 探索的テストおよび細かな問題の発見に関して信頼性が高い。 一貫性のある反復的なテストに関してより信頼できる。
テストカバレッジ 多様なシナリオを汎用的にカバーできるが、大規模で複雑なテストに関しては効率性に劣る。 大規模で反復的なテストを広範にカバーできるが、人間の直感を必要とするシナリオでは力不足。
スケーラビリティ 時間がかかり効率性に劣るが、人間の直感を必要とするUI関連のテストに関して効果的。 大規模なルーティン的タスクに関して効率的。
テストサイクル時間 手作業が必要なため実行に時間がかかるが、大がかりな準備を必要とせずに実行でき、比較的小規模なプロジェクトでは効率的。 セットアップやスクリプト作成には時間がかかることがあるが、一度完了すれば、実行やレポート作成は迅速で、全体的なテストサイクルを短縮できる。
ユーザーエクスペリエンス テスターの直感に基づくため、ユーザーエクスペリエンスの評価には必須。 人間が関与しないため、ユーザーエクスペリエンスの評価には限界がある。
ヒューマンリソース / スキル プログラミングスキルは必要とされないが、テストの実務経験が必要。 プログラミング知識が必要。Python、Java、JavaScriptなどの言語に精通していると有利。

手動テストの主な特性

手動テストの主な特性: 手動テストには、テスト戦略の強化に役立つ可能性があるいくつかの特性があります。

  • 柔軟: 手動テスターは、ソフトウェアの成長につれて戦略を調整することができます。
  • 人間中心: テスターはおのおのの直感を頼りに、エンドユーザーの立場で探索します。
  • 即応的: 開発の早期段階ですばやくバグを検出することが可能です。

特性を活用するためのヒント

  • 柔軟性を強化する
    テストプロセスおよび探索的テストセッションで見つかったバグを文書化します。これは、以降のテストサイクルで柔軟に計画を立てるのに役立ちます。
  • 人間中心のテストを活用する
    テスターをペルソナワークショップに参加させ、テスターの直感と現実のユーザーニーズおよび振る舞いの齟齬をなくします。
  • 即応性を改善する
    開発者との定期的なフィードバックループを確立し、検出された問題がただちに対処されるようにします。これによって、ソフトウェアの全体的な品質が強化されます。

自動テストの主な特性

  • 客観的: 自動テストは事前定義済みのスクリプトに忠実に従うため、ヒューマンエラーや先入観を最小限にします。
  • 繰り返し可能: テストスクリプトは必要に応じて再利用可能であり、回帰テストなどの反復的なタスクに有効です。
  • スケーラブル: 自動テストは拡張が容易で、機能が変わったり、システムがより複雑になるにつれて拡張できます。

特性を活用するためのヒント

  • 客観性を強化する
    テストケースが適切に作成されていることを確認し、定期的に見直すことで、高い品質を保ち、結果の誤りを最小限にします。
  • 反復性を最大化する
    よくあるシナリオについて再利用可能なテストスクリプトのライブラリを作成し、プロジェクトを横断してテストプロセスを合理化します。
  • スケーラビリティを改善する
    テストニーズの発展に伴って容易に変更と統合が可能なしっかりした自動化ツールに投資します。

手動テストと自動テストの利点と欠点

それぞれのアプローチの強みと弱みを理解するのに役立つよう、以下に手動テストと自動テストの利点と欠点を挙げます。

手動テストの利点と欠点

利点欠点
テスト対象アプリケーションのタイプによっては、よりコスト効率が高い可能性がある。人間の作業が必要なため、自動テストよりも時間がかかる。
テスト対象アプリケーションのタイプを問わない。人間が誤りを犯す可能性が高いため、結果の一貫性は低くなる。
順応性が高い。テスターは発見した問題に応じてアプローチを調整できる。競争の激しい市場で有能なテスターを採用し、引き止めておくのが難しい場合がある。
直感的であり、ユーザビリティテストやアクセシビリティテストに向いている。多数のテストケースを処理する場合、テストカバレッジが低い。
人間の直感が重要である探索的テストに適している。効果的な実施には多大な投資と時間が必要になる。
自動テストでは見逃される可能性がある重要なユーザーの知見を捕捉できる。特に反復的タスクについては効率が悪い。

自動テストの利点と欠点

利点欠点
大量のテストケースを効率的に処理できるため、テストカバレッジが増加する。初期セットアップおよびメンテナンスのコストが高い。
人間の関与は最小限で、素早く実行できる。手動テストより直感性および柔軟性に劣り、微妙な問題を見逃す可能性がある。
信頼性が高く客観的であり、ヒューマンエラーを低減できる。複雑なツールでは重点的なトレーニングが必要な場合がある。
再利用可能なスクリプトによって、特に回帰テストにおいて時間を節約できる。比較的小規模なプロジェクトにとっては複雑すぎる。そのような場合は手動テストのほうが効率的。
反復的で大規模なテストタスクに最適。ユーザーの心情や微妙なユーザーエクスペリエンスの捕捉には効果的ではない場合がある。

自動テストと手動テストの使い分け

手動テストにも自動テストにも、それぞれ強みと弱みがあります。どのアプローチを採用すべきかを判断する際は、以下の要因を考慮します。

テストスケジュール

  • プロジェクトのタイムラインを検討します。スケジュールがタイトな場合は「手動の探索的テストによって、よりすばやいフィードバックを提供できるか?」という点を考慮します。
  • 自動スクリプトの作成および手動テストの両方に個別の期間を割り当てるタイムラインを組むことを検討します。

予算の制約

  • 予算を検討します。自動化ツールへの初期投資の余裕があるでしょうか?
  • 予算が限られている場合、直近のニーズに応えるために手動テストを優先するいっぽう、将来的には徐々に自動化することを計画します。

チームリソース

  • チームの規模とスキルセットを分析します。チームメンバーには自動化の知見があるでしょうか?それとも手動テストのほうがより現実的でしょうか?
  • リソースが許すなら、自動化分野でのアップスキルのためにメンバーにトレーニングセッションを提供することを検討します。

特定のプロジェクト要件

  • プロジェクト要件を詳細に見直します。どんなタイプのテストが必要でしょうか?機能テスト、非機能テスト、あるいはその両方でしょうか?
  • 必要なテストタイプのチェックリストを作成し、すべての面をカバーできるようにします。

業界ガイドライン

  • 常に業界ガイドラインに関する最新の情報を知っておくようにします。準拠に手動での検証を要求する規制はないでしょうか?
  • 業界規格によって要求される場合、手動テストを含むコンプライアンスレビュープロセスを構築します。

適切なテスト手法の選択

テスト手法に関しては、手動か自動化の選択は、効率性および有効性に大きな影響を与える可能性があります。たとえば、モバイルゲームの負荷テストは、通常、手動テストよりも自動ツールで実行するほうが高速でしょう。 

次の表は、テスト手法とそれに適したテストタイプの例です。

テスト手法 最適なテストタイプ 説明
回帰テスト 自動 頻繁に繰り返されるタスクに対して効果的です。自動ツールはコードを変更した後にすばやくテストを再実行するのに優れています。
ユーザビリティテスト 手動 ユーザーエクスペリエンスを評価するには、人間による操作が必要です。テスターは実ユーザーの動作をシミュレートすることでユーザビリティを評価します。
探索的テスト 手動 テスターの柔軟性と創造性が必要とされる状況に最適です。手動テストは直感的な探索を可能にします。
UIテスト ハイブリッド アプリケーションによっては、機能やユーザーインターフェイスを評価するのに手動テストと自動テストの両方が必要になる場合があります。
パフォーマンステスト 自動 大きなリソースを消費し、多くの場合、スケール化が必要です。自動テストは効率的に負荷をシミュレートし、パフォーマンスメトリクスを評価できます。
受け入れテスト ハイブリッド 手動アプローチと自動アプローチを組み合わせます。リリースの前に機能要件および非機能要件の両方が満たされていることを確認します。

手動テストと自動テストの適切なバランスの判断

テスト作業で品質と信頼性を達成するには、手動テストと自動テストの適切なバランスを見極めることが不可欠です。以下の点を考慮します。

  • ユーザーの満足度: ユーザーの満足度が目的である場合、自動テストだけでは不十分であることを認識します。ユーザーエクスペリエンスを評価し、アプリケーションが確実にユーザーニーズを満たすようにするうえで、手動テストは重要な役割を果たします
  • 強みを組み合わせる: 両方のアプローチの強みを活用します。自動テストは一貫性と高いカバレッジを提供するいっぽう、手動テストは状況に適応し微妙なユーザーインタラクションを評価するための柔軟性を提供します。
  • 両方のメソッドの統合: 手動テストと自動テストの両方を取り入れたハイブリッド戦略を目指します。統合により、網羅的なカバレッジを達成すると同時に、重要なユーザーエクスペリエンスが見落とされることがないよう保証できます。

手動テストと自動テストを効果的に統合するための戦略

最良の結果を達成するのにハイブリッドテストアプローチは非常に効果的です。以下は、手動テストと自動テストを統合するための実践的な戦略です。

  • 前もって計画する: どのシナリオがどちらのタイプのテストを必要とするかを決定します。片方のタイプのテストで残ったカバレッジの空白と、もう片方のテストでどのようにその空白を埋めることができるかを検討します。さまざまなシナリオにおいて、どのような場合に手動テストを利用し、どのような場合に自動テストを利用するかの概要を示すテスト戦略を策定します。
  • 小さく始める: Seleniumなどのテスト自動化ツールに慣れていない場合、少数の手動テストケースから始めます。手動テストが結果に与える影響を評価し、自信と理解が蓄積するにつれて、徐々に自動テストを増やします。
  • コミュニケーションを促す: 手動テスターと自動テスターのコラボレーションを促進し、ボトルネックを明らかにして解決方法についてボトルネックを特定し、解決策を議論します。定期的にミーティングを開催して課題を議論するとともに知見を共有し、コラボレーションというDevOpsの原則を強化します。

結論: 自動化は万能ではない

自動化は万能ではありません。ハイブリッドテストアプローチが最も有用な結果をもたらします。品質保証戦略において自動化だけに頼るのはやめましょう。手動テストと自動テストの両方を統合することで、網羅的なカバレッジとユーザーエクスペリエンスの評価を実現します。

TestRailは、自動化ツールをシームレスに統合し、手動テストのための時間を豊富に確保するのに役立ちます。技術スタックを問わず、すべてのテストアクティビティを1つの場所で管理するのにどのようにTestRailが役立つかを知ってください。TestRailを使用して自動化フレームワークを統合する方法の詳細については、テスト自動化に関するドキュメントを参照してください。

画像: 1つのコラボレーションプラットフォームで自動テストケースと手動テストケースを管理、分類、追跡

FAQ: 手動テストと自動テスト

自動テストの優位点

  • テストカバレッジの増加: 自動テストはテストカバレッジを増加させるため、大規模なテストケースや、毎回発生するわけではなく再現が難しいパフォーマンスのバグを処理するのに向いています。
  • 高速で効率的: 通常、自動化ツールは実行時間が短く、最小限の人間の介入でテストを実行できるため、手動テストのための時間を増やすことができます。
  • 信頼性が高い: 自動テストは客観的でヒューマンエラーが起こりにくく、指定された要件に従ったテストスクリプトを確実になぞることができます。
  • 再利用可能: 自動テストは反復的なタスクに利用でき、手動テストに比べると大幅に時間を節約できます。この効率性は、統合テストなどの複数コンポーネントのテストに特に有効です。

手動テストの優位点

  • テクノロジー非依存: 手動テスターは特定のテストツールに精通している必要がないため、比較的プログラミング知識の少ないテスターも入りやすくなります。これは特にブラックボックステストシナリオに有効です。
  • コスト効率が高い: 自動テストツールは高価な場合もあるため、予算が比較的少ないチームの場合や、実行するテストケースが少ない場合は、手動テストのほうが適していることも多いでしょう。
  • 適応性が高い: 手動テストはそれほど大がかりな準備を必要としないため、新しい問題を発見するたびに柔軟にアプローチを調整できます。
  • 直感的: 手動テスターはエンドユーザーの立場になることができます。たとえば、店舗Webサイトでの購入をシミュレートできるので、手動テストはユーザビリティおよびアクセシビリティの評価に最適です。

自動テストの制約と課題

  • 直感性に劣る: 手動テストが持つ人間中心という性質は、自動テストには欠けていることがあります。人間の直感が重要な非機能テストシナリオでは、ツールは苦戦する場合があります。
  • 柔軟性が低い: 自動テストは事前定義されたスクリプトに依存しているため、適応性には限界があります。テストがすべての入力やユースケースをカバーしていない場合、結果は不完全である可能性があります。
  • より高価: ソフトウェアの購入やテスターのトレーニングも含め、自動化フレームワークおよびツールのセットアップには多大なコストがかかる場合があります。
  • 無用に複雑化する可能性がある: 比較的小規模なプロジェクトでは、自動ツールの複雑さが利点を上回る可能性があります。テストチームの規模によっては、自動テストが最も効率の良い選択肢とは言えない場合もあるでしょう。

手動テストの制約と課題

  • 低速で冗長: 手動テストは全面的に手作業に依存しているため、時間がかかる可能性があります。手動テスターが自動化ソフトウェアほど効率的に大量のデータを処理するのは困難です。
  • ヒューマンエラーが起きやすい: 手動テスターは、特に機能回帰テストにおいては、機械よりも間違いを犯しやすいでしょう。自動テストなら捕捉可能な構文やロジックのエラーを見落とす可能性があります。
  • リソースを消費する: 手動テスターの採用とトレーニングに高いコストがかかる場合があります。さらに、業界によっては専門的な知見が必要な場合もあり、競争の激しいQA市場での人材確保が課題になることもあるでしょう。
  • 一貫性が低い: 人間のテスターにだけ頼っている場合、集中力にはばらつきがあるため、結果はまちまちであり、チーム編成の変更も生産性に影響を与える可能性があります。
  • テストカバレッジが低い: 多数のテストケースがある大規模なシステムでの手動テストは有効性が劣ります。スピードが遅く必要な作業量が大きいため、最大限のテストカバレッジを達成するのは困難です。

自動テストの方が適しているシナリオの典型例

  • 回帰テスト: 自動ツールは、反復的なテストタスクに特に有効です。自動ツールの効率性は、コードが変更されるたびにすばやくテストを実行することを可能にし、更新によってバグが入り込むのを防ぎます。
  • 負荷テスト: 自動テストは、最小限の労力で大きな負荷をシミュレートできます。このようなスケーラビリティによって、負荷パラメーターを調整し、サーバーで複数のアプリケーションを実行したり、大きなファイルを同時にダウンロードしたりして潜在的なエラーや安定性の問題を検出できます。
  • 並行テスト: 複数のマシンで並行してモジュールをテストする場合、自動ツールが優れています。並行テスト実行を効率的に管理し、分析が容易なテストレポートを生成します。
  • セキュリティテスト: セキュリティテストでは現実の攻撃をシミュレートする必要があり、自動化ツールの利用は必須です。ツールは、手動テストだけでは実現が困難なシナリオを再現できます。

手動テストの方が適しているシナリオの典型例

  • 探索的テスト: 手動テストは、探索的テストまたはアドホックテストに最適な選択肢です。QAエンジニアは、テスト時に直感的に得た洞察を活用して、後でより構造化されたテストケースを作成できます。
  • ユーザビリティテスト: 手動テストの実践的性質は、ユーザビリティの評価にきわめて効果的です。手動テスターは、アプリケーションがユーザーフレンドリーかどうかを評価し、ユーザーがチャットボックスの操作などのタスクを問題なく完了できることを保証できます。
  • 互換性テスト: 手動テストは、現実的なシナリオでのソフトウェアの動作を評価するのに欠かせません。テスターは、さまざまなプラットフォーム、デバイス、OSでのリアルタイムのパフォーマンスを評価できます。
  • 小規模なテスト: テストが1回か2回しか実行されない場合は、手動テストのほうが効率的なアプローチである可能性があります。たとえば、ホットフィックスのテストは範囲が狭いことが多いため、手動テストを採用すると、自動テストツールに必要な複雑なセットアップを避けることができます。

(この記事は、開発元Gurock社の Blog 「Manual Testing vs Automated Testing: Key Differences」2024年10月17日の翻訳記事です。)

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